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京都地方裁判所 昭和57年(行ウ)35号 判決

京都市上京区河原町荒神口下る上生洲町二三四番地

原告

法澤剛雄

右訴訟代理人弁護士

木村靖

玉木昌美

京都市上京区一条通西洞院東入元真如堂町三五八番地

被告

上京税務署長 安田功

右指定代理人

小野木等

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対し、昭和五三年三月一〇日付けでした原告の昭和四九年分所得税更正処分及び過小申告加算税の賦課決定処分(以下、本件処分という)をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一  請求の類型(訴訟物)

本件は、原告が、被告のした本件処分のうち、分離土地等の雑所得の金額の認定に関し、事実誤認及び法令適用の誤り並びに所得金額を過大に認定した違法があるとして、本件処分の取消を求める抗告訴訟である。

二  前提事実(争いがない)

原告は、会社役員であり、その昭和四九年分の所得税の確定申告、更正処分等、異議申し立て、異議決定、審査請求、採決の経緯は、別表一記載のとおりである。

本件処分のうち、分離土地等の雑所得の金額の認定は、次の理由に基づきなされた。 昭和四九年八月一四日付け及び昭和五〇年二月二〇日付けで、大津市土地開発公社(以下、開発公社という)が買い受けた別表2の順号1ないし25及び30の土地(以下、本件土地という)は、すべて原告が開発公社に譲渡したものである。また、別表2順号28の土地(以下、別表2の土地は順号のみで表示する)は、昭和四九年一二月六日付けで原告が丸尾孫寿に譲渡したもので、いずれも雑所得の基因となる資産である。したがって、昭和五〇年法律第一六号による改正前の租税特別措置法(以下、措置法という)三三条の適用はない、というものである。

三  争点

1  本件土地を開発公社に譲渡したのは、すべて原告であるか、それとも別表2の「売買契約上の売り主」欄記載の第三者か。

2  本件土地等(本件土地及び順号28の土地をいう)の譲渡につき、その所得の種類及び措置法三三条の適用の有無。

3  分離土地等の雑所得の金額、収入金額、取得価額。

四  被告の主張

1  別表2(1)記載の土地は、原告が、株式会社興人(以下、興人という)に転売する目的で、各地主から買収し、昭和四七年に興人に売却した。しかし、その後、大津市が中学校用地を買収することになったため、原告は、昭和四九年八月三〇日、興人との売買契約を合意解除し、本件土地を開発公社に譲渡した。

2  原告は、昭和四〇年一一月五日付けで宅地建物取引業の免許を受け、昭和四六年ころから、近畿ハウジング等の名称で不動産取引業を営み、昭和四八年二月一日付けで、宅地建物取引業の廃業届を提出した。

1のとおり、本件土地等は、原告がその事業継続中に、販売用資産(たな卸資産)として取得した資産であり、事業廃業後において、有利な条件で開発公社へ譲渡するため、興人との売買契約を解除して、開発公社へ譲渡したものである。

したがって、開発公社等への譲渡(開発公社及び丸尾孫寿への譲渡をいう)は、臨時的、偶発的に発生したものではないから、譲渡所得には該当せず、また、事業廃業後の譲渡による所得であるから、事業所得ではなく雑所得に該当する。

そして、措置法三三条一項は、その特例適用の対象となる資産の範囲について、「所得税法二条一項一六号にいうたな卸資産その他これに準ずる資産で制令で定めるものを除く」と規定し、措置法施行令二二条二項は、「措置法三三条一項に規定する政令で定めるたな卸資産に準ずる資産は、雑所得の基因となる土地及び土地の上に存する権利とする」と規定している。そうすると、原告の本件土地等の譲渡による所得は、雑所得に該当するから、措置法三三条の適用がないことは明らかである。

3  分離土地等の雑所得の金額は、以下のとおり四億〇、九三六万三、五一五円である。

(一) 収入金額 六億五、五八三万四、〇〇〇円。

内訳

本件土地の開発公社への譲渡金額 六億三、四八八万四、〇〇〇円

順号28の土地の譲渡金額 二、〇九五万円

(二) 取得価額 二億四、五三九万〇、九八五円

本件土地等の取得額の明細は、別表3の記載とおりである。

(三) 必要経費の額 一〇七万九、五〇〇円

四  原告の主張

1  原告は、昭和四六年ころ以降、興人から、大津市瀬田大江町地区の土地の代理買収を依頼された。そして、原告は、各地主の代理人として、興人に土地を売却した。

この買収には、地主と原告間、原告と興人間の二段階の売買契約が作成されたが、実質的には一体の契約であった。それは、地主の意向やトラブルの処理を原告がすること、興人側では開発のために一定の区画を確保するのに必要であること、代替地の希望に応じられることなどのメリットがあったために二段階売買にしたものである。

開発公社から興人に対し、中学校用地について買収協力依頼がなされたため、興人は全体の開発が不可能となり、対象となった二九筆の土地について合意解除することにした。解除により土地の所有権を取得したのは元の地主であり、原告は、各地主の代理人として手続をしたにすぎない。

しかし、地主の中には、解除に伴う売買代金や代替土地の所有権の返還を望まない者があり、これらの者の求めに応じて、原告や原告の家族らが各土地の所有権を譲り受けた。

そして、別表2の「売買契約上の売主」欄記載の者が、原告を代理人として、開発公社へ本件土地を譲渡した。したがって、順号1ないし9及び18ないし24の土地の譲渡による所得は、原告に帰属しない。

2  したがって、本件土地のうち、順号10ないし17、25の土地を原告が取得したのは、転売目的で計画的に取得したものではなく、前示のとおり、中学校用地の確保のため、やむなく元の地主から所有権の譲渡を譲り受けたものである。

そして、開発公社による中学校用地の買収は、土地収用にかかるものであり、臨時的、偶発的に発生した取引であるから、これによる所得は、譲渡所得に該当する。

しかも、右の経緯からすると、措置法三三条の適用があり、原告のした買換承認申請は正当である。

3  本件土地の取引に関し、原告の手元に残った金額は、以下のとおり、二八一万五、三三二円である。

原告は、別表2の申告物件欄記載の六筆の土地を開発公社に譲渡し、二億三、〇八四万九、七六〇円を取得したが、元の地主に利得金として八、一四三万七八二円を支払った。

原告は、井上兵左衛門に草津市矢橋町の土地を売却して、一、六六三万七、五六〇円を取得した。

原告は、森口周作に金一、〇〇〇万円を支払った。

原告は、興人に対し、売買契約解除に伴い、返還金一億五、三二三万五、二〇六円を支払った。

なお、本件土地の取得価額は、興人との売買契約解除によって取得した金額によるべきである。

第三争点の判断

一  争点1について

1  事実の認定

(一) 原告は、昭和四〇年一一月五日付けで宅地建物取引業の免許を受け、昭和四六年ころから近畿ハウジング等の名称で不動産取引業を営み、昭和四八年二月一日付けで廃業届を出した。また、原告は、昭和四七年一一月一七日に株式会社近畿ハウジングを設立し、その代表取締役に就任した。同社は、昭和四八年二月一日、宅地建物取引業の免許を受け、昭和四九年三月一〇日、ハウジング工業株式会社に商号を変更し、同年六月三〇日に解散の株主総会決議をし、同年七月一〇日解散登記をして、宅地建物取引業の廃業届を出した。

(乙一〇、五六、五七、六〇、原告(第一回))

(二) 興人は、昭和四九年ころから、大津市瀬田町において大規模な宅地開発を行うため、第一期から第六期にかけ土地の買収を行ったが、直接自ら買収せず、不動産取引業者を利用した。この場合、興人が買受単価を決定した上で買収の取りまとめを依頼して、不動産業者自身が買主となって買収を行わせ、これを改めて興人が買い受ける場合と、不動産業者が地主と興人との売買の仲介をする場合とがあった。そして、仲介の場合が大部分であり、この場合は仲介契約書を作成していた。しかし、地主に面識がなくて、興人の知名度が低い場合には、顔のきく不動産業者を買主としており、本件もこの場合に当たる(証人小谷嘉代子)。

原告も昭和四六年頃から右土地買収に関与し、地元の地主から自ら買い受けた土地のうち、一四筆を、昭和四六年八月二〇日付けで興人の子会社である西日本不動産株式会社に対し、他の二四筆の土地を、昭和四七年一月二四日付けで興人に対しそれぞれ転売した。

(甲五〇、五二の1、乙五四の1ないし9、五八、五九、七五、証人宮崎朋郎、同小谷嘉代子)

(三) 原告は、昭和四六年ころから、本件土地等の他大津市瀬田町地区の土地につき、宅地開発をする興人へ転売することを示して、各地主と交渉を行い、各地主との間で売買契約を締結した。その買主名義は、興人ではなく、原告ないし夏原ふみよである。また、代金の代わりに代替土地を要求する売主もいたが、その代替土地の提供義務は、原告が負っていた。

(甲三四の1ないし4、三五ないし三八、三九の1、2、四〇ないし四四、四五の1、2、四六ないし四九、乙七一、原告(第一回))

(四) 昭和四七年七月一五日、原告を売主、興人を買主として、二七筆の土地(畑・山林)を二億〇、四六一万円で売買する契約書が作成された(以下、第一次契約という)。その特約条項の中には、原告が元地主との間において取り交わした売買契約を興人は継承のうえ遵守する。代替田の斡旋は原告の責任において処理し、興人は支払についてのみ継承する、原告は、各土地を仮登記を付することの定めがなされていた(甲一の1、乙二)。

同年一〇月一一日、原告を売主、興人を買主として、三三筆の土地を三億一、一〇六万六、〇〇〇円で売買する契約書が作成された(以下、第二次契約という)。その特約条項の内容は第一次契約と同様であった(甲一の2、乙三)。 同年一二月二五日、原告の個人会社である株式会社近畿ハウジングを売主、興人を買主として、七筆の土地を五、八一九万八、〇〇〇円で売買する契約書が作成された(以下、第三次契約という)。その特約条項の内容は第一次契約と同様であった(甲一の3、乙四)。

興人は、第一次から第三次契約について、契約締結時には手付金を、その後何回かに分けて中間金をそれぞれ支払った。その領収書は、近畿ハウジング、原告または株式会社近畿ハウジング名義で作成されているが、前示第一次ないし第三次契約の契約書の売主の名義とは必ずしも一致していない(乙五四の1ないし9、五五の1ないし31)。

なお、この他に原告と興人との間で、土地売買の委任や仲介に関する契約書は作成されていない。

(五) 昭和四八年六月ころ、大津市教育委員会が、瀬田中学校の移転新築用地として、本件土地の一部を、昭和四九年三月末までに買収することにし、開発会社に先行取得させることにした。しかし、登記簿によると、対象土地の大部分に興人の所有権移転請求権の仮登記が経由されていたため、開発公社は、昭和四九年七月三一日付けで、興人に対し、対象土地買収の協力依頼を発した。

これに対し、興人では、原告との第一次ないし第三次契約において、開発行為の許可が下りないと契約が失効するとの条項もあったことから、開発公社へ協力することにした。そして、同年八月一〇日付けで、対象土地に関する売買契約を売主である原告との間で解除するので、原告と交渉されたいとの返答をした。また、原告からも、開発公社に対し、自己が対象土地の所有者であるから、以後は原告と交渉するようにとの申入れがなされた。

(甲一〇六、乙五、六、四七ないし四九、六三、証人木戸綱幸、同高村圭一)

(六) 昭和四九年八月三〇日、第一次契約のうち一一筆、第二次契約のうち一五筆、第三次契約のうち三筆の合計二九筆の土地(別表2の(1)記載のとおり)について、原告と興人との間の売買契約が合意解除された(乙七ないし九)。解除に伴い手付金と中間金の総額一億九、八一五万八、〇〇〇円が興人へ返還された。そのうち一億九、八一二万二、〇九〇円の支払については、後記認定の開発公社から同月一四日付け売買契約の代金として振り出された小切手一六通のうちの一〇通が用いられた(乙一一ないし二〇の各1、2、五四の1ないし9)。

しかし、右二九筆の土地について、原告と元の地主との売買契約の解除に関する契約書はなく、元の地主は、手付金や中間金を返還してもいないし、原告から移転を受けた代替土地を返還してもいない。

(七) 開発公社では原告を相手方として交渉をし、対象土地を総額六億三、四八八万四、〇〇〇円で買収する旨の合意をした。しかし、原告は、登記面上何らの権利も有していなかったため、開発公社は、原告に対し、各登記名義人の委任状、印鑑証明及び登記承諾書を要求した。開発公社では原告を売主と考えていたが、契約書作成の段階で、原告から別表2の「売買契約上の売主」欄記載の者の名義で契約したいと要求され、開発公社はこれに応じた。そして、昭和四九年八月一四日付けで締結された売買契約(その対象土地は、順号1ないし24及び30であるが、順号4の土地は、同月一六日付けである。以下本件売買契約という)は、原告を代理人として、これらの者の名義で行うという形式がとられた。(甲五、九の1ないし8の各1ないし3、九の9の1ないし5、九の10、11の各1ないし3、九の12、13の各1ないし5、乙四八、四九、六三、証人木戸綱幸)

(八) 開発公社は、売買代金を、昭和四九年八月三〇日に三億円、同年九月二七日に三億円、昭和五〇年二月三日に三、四八八万四、〇〇〇円と分割して払った。その領収書は原告が発行しているが、代理人という表示はない。(甲一〇の1ないし3、一五の1、証人木戸綱幸)

昭和四九年八月三〇日の三億円は、開発公社振出の小切手一六通で支払われたが、うち一〇通は前期(六)のとおり、興人への返済金の支払に当てられた。他の六通(額面金額合計一億〇、一八七万七九一〇円)は、第一勧銀大津支店から、その前日に開設された第一勧銀烏丸支店の原告名義の当座預金口座に振込送金された(乙一一ないし二〇の各1、2、二一、ないし二三、二四ないし二六の各1、2、二七、五二)。

昭和四九年九月二七日の三億円は、開発公社振出の小切手三通で支払われたが、これは瀬田町農業協同組合振出の三億円の小切手に変えられ、同日開設された第一勧銀烏丸支店の原告名義の普通預金口座に入金され、翌日二八日取り立てられた(乙二八ないし三〇の各1、2、五〇の1、2、五三)。

昭和五〇年二月三日の三、四八八万四、〇〇〇円は開発公社振出の小切手一通で支払われたが、これは瀬田町農業協同組合振出の同額の小切手に変えられ、第一勧銀烏丸支店の原告名義の普通預金口座に入金され、翌四日取り立てられた(乙三一の1、2、五一の1、ないし3、五三)。

(九) 開発公社は、中学校予定地域内の土地をすべて買収したつもりでいたが、順号25の土地が含まれていなかったうえに、予定地域外の土地が含まれていた。そこで、当初の契約内容を変更することにし、昭和五〇年二月二〇日、原告との間で、さきの昭和四九年八月一四日付けの売買契約につき変更契約を締結した(以下、本件変更契約という)。本件変更契約では、順号25の土地を追加買収とし、順号14ないし16の土地の売買契約を解約することとした。しかし、売買契約総額は、本件売買契約のそれと異ならず、中学校用地以外の土地の買収代金を減額し、その代わりに原告が売主名義となっている土地の買収代金を増額するというものであった。そして、昭和五〇年三月七日、開発公社から追加買収代金が支払われ、原告からはこれと同額の返金がされた。これらの名義は、いずれも原告名義でなされ、代理人の表示はない。また、売買契約が解除された順号14ないし16の土地は、昭和四九年九月五日ないし一二日付けで既に開発公社へ所有権が移転されていたが、売買契約が解約されたことになった後も原告に所有権が返還されていない。

(甲七の29、30、36、九の6ないし8の各4ないし6、九の9の6ないし10、一四の2、3、一五の2ないし4、証人木戸綱幸、原告(第一回))

2  以上認定の事実を総合すると、次の各事実を推認することができる。

(一) 本件土地等を含む大津市瀬田町地区の土地を、原告が各地主から、興人への転売を前提としていったん原告自身が買主となってこれを買い受けたうえ、第一次から第三次契約に基づき興人へ転売したものである。

(二) 原告と興人との間で、開発公社からの中学校用地の買収協力依頼に応じ、その対象土地について第一次から第三次契約の一部を合意解除し、原告は、興人から受け取っていた手付金、中間金を返還し、順号1ないし29の土地の所有権を取り戻した。そのうち順号1ないし24の土地とこれに加えて別物件である順号30の土地とを、総額六億三、四八八万四、〇〇〇円で開発公社へ売却した。

(三) その際、原告は、別表2の「売買契約上の売主」欄記載の者の名義を利用し、自己をその代理人とする形式で、本件売買契約を締結した。

(四) その後、原告と開発公社との間で、順号25の土地についても当初から本件土地売買契約の対象とする旨の本件変更契約が締結された。

以上のとおり認めるのが相当である。

したがって、昭和四九年八月に、本件土地を開発公社へ売り渡したのは、売買契約書で形式売主名義とされている別表2の「売買契約上の売主」欄記載の者ではなく、原告が実質上の所有者本人として自ら行ったものというほかない。

3  原告は、順号1ないし9及び18ないし24の土地を開発公社へ譲渡したのは別表2の「売買契約上の売主」欄記載の記載の者であり、原告はその代理人にすぎない旨主張し、原告本人もこれに副う供述(第一、第二回)をし、その、旨の供述調書(甲一〇八、乙六五)も存在する。また、本件売買契約上の売主とされた者やその家族にも、原告と同様の供述や供述記載がみられる(甲九九、一〇一ないし一〇五、証人山崎登、同中谷重助、同森口周作、同中谷寿美子、同井上富江、同井上宗次)し、原告の主張に副う証言や書証も存在している(甲六の1ないし4、七八、九八、乙六六、証人木戸綱幸、同阪口康男等)。

しかし、原告の供述内容は、それ自体不合理不自然な点が多く、本件売買契約上の売主とされた者やその家族の供述や供述記載は、平成三年以後になされたもので、昭和五三年当時になされた供述(乙四〇、四三、四六、六七、七〇、七三)とは矛盾しており(証人高村圭一)、その他の証言や書証も前認定に供した各証拠に照らしてたやすく信用することはできないというべきである。

そして、他に前認定1、2の事実を左右するに足る証拠がない。

4  原告は、措置法二八条の四第一項に関する通達(昭和五五年直所三-二〇)を引用して、土地の帰属は登記名義により判定すべきであるとも主張する。

しかし、収益の帰属は、実質課税の原則(所得税法一二条参照)に照らし判定すべきものであって、登記名義のみによって決定すべきものではない。右通達は、措置法同条項の「他の者から取得した土地等」につき、売買だけでなく交換、贈与、相続、代物弁済等により取得した場合を含むことを示したものにすぎず、原告主張のように、形式的に登記簿記載の者をもってその帰属者を定める旨を規定したものではない。

5  原告は、仮定的に、原告、旧地主ら間の売買契約には、農地法五条の転用許可の却下が解除条件とされ、原告、興人間の売買契約には、新都市計画法に基づく開発申請の不許可が解除条件とされていた。したがって、学校用地問題がでてきてこれらの条件が成就し、既に両契約が失効していて契約解除の余地がない。とすれば、興人との合意解除により原告が所有権を取得することはないという。

しかし、右合意解除の時点までに、原告と旧地主らとの売買につき転用許可申請の却下や興人との売買につき開発申請の不許可があったと認めるに足る的確な証拠がない。

なお、農地法五条の転用許可がなされていない場合にも、原告は旧地主から本件土地につき、右許可を法定条件として所有権を取得し得る権利を譲り受け、これを開発公社に譲渡したものといえる。これは、原告が、措置法施行令二二条二項所定の「土地の上に存する権利」を開発公社に譲渡し、その代金が、後記認定のとおり、本件雑所得の「収入すべき金額」に当る。

二  争点2について

前記認定の通り、原告は、興人への転売を前提として、土地を元の地主から買い受けたものであり、このような販売用の不動産を、いったん興人へ売却しながら、これを合意解除し、開発公社へ改めて売却したものである。

そして、原告が本件土地等を開発公社へ売却した当時、原告は、個人としては勿論、その経営する法人としても、宅地建物取引業を廃業していたのであるから、事業用の不動産(たな卸資産)を廃業後に譲渡したものというべきである。とすれば、その譲渡による所得は、譲渡所得はもちろん、事業所得にも該当せず、雑所得に該当すると解するのが相当である。

したがって、本件土地等は、措置法施行令二二条二項にいう雑所得の基因となる土地に該当し、同条項により、措置法三三条の特例適用の除外対象となるたな卸資産に準ずる資産に当たるものというべきである。

よって、本件土地等の譲渡について、措置法三三条の適用はない。

なお、原告は、本件課税は、原告と旧地主との間、興人との取引及び開発公社との取引につき、二重課税となり違法であると主張する。しかし、本件全証拠によってもこれを認めるに足りないし、そもそも、二重課税により本件課税が違法になるともいえない。

三  争点3について

1  収入金額

以下のとおり、六億五、五八三万四、〇〇〇円である。

本件土等の開発公社への譲渡金額は、前認定のとおり、六億三、四八八万四、〇〇〇円である。

順号28号の土地の丸尾孫寿への譲渡金額二、〇九五万円は、原告において明らかに争わないから、それを自白したものとみなす。

2  取得価額

以下のとおり、二億五、三三三万七、五〇五円である。

(一) 別表3の番号1の土地(中谷禮太郎関係)(以下、番号のみで表示する)

一、二七二万円。

証拠(甲三四の4、原告(第一回))によれば、取得価額は、原告が、昭和四七年五月一〇日、夏原ふみよ名義で、この土地を買い受けた際の代金額と認められる。

(二) 番号2の土地(中谷禮太郎関係) 一、五五〇万一、五二〇円。

証拠(甲七の25、三四の1ないし3、一〇七、原告(第一回))によれば、取得価額は、原告が中谷に代わり、昭和四七年五月一五日、転売先である株式会社植村住宅からこの土地(農地)の停止条件付権利を買い受けた際の代金と認められる。

(三) 番号3、4の土地(高野惣平関係) 一、〇八八万六、〇〇〇円。

証拠(甲三七)によれば、取得価額は、原告が、昭和四七年一一月一〇日、この土地を買い受けた際の代金額と認められる。

(四) 番号5ないし8の土地(山崎はる子関係) 四、六八七万円。

証拠(甲三九の1、2、乙七三)によれば、取得価額は、原告が昭和四七年九月二一日、番号6ないし8の土地を買い受けた代金額一、七三〇万円、同年一一月一五日、番号5の土地を買い受けた代金額一、七七一万五、〇〇〇円、昭和四九年一〇月一八日、追加金として支払った金額八〇〇万円、同年一二月三一日、追加金として支払った金額三八五万五、〇〇〇円の合計額と認められる。

(五) 番号9、10の土地(中谷捨松関係) 三三一万円。

証拠(甲六七、原告(第一回))によれば、取得価額は、原告が、昭和四八年八月一四日、この土地を買い受けた際の右代金額である。

(六) 番号11ないし15の土地(澤田久一関係) 三、九七八万八、〇〇〇円。

証拠(甲四〇、乙三七、四三、原告(第一回))によれば、取得価額は、原告が昭和四七年一〇月三〇日、これらの土地を買い受けた代金額三、五八五万円、同年一一月二六日、追加代替土地として引き渡した草津市南笠町八三四番地の土地の価額一九三万八、〇〇〇円、昭和四九年九月二一日、追加金として支払った金額二〇〇万円の合計額と認められる。

(七) 番号16の土地(石元喜義関係) 三六〇万円。

証拠(乙七一)によれば、取得価額は、原告が、昭和四九年二月ころ、この土地を買い受けた代金額三〇〇万円、同年九月ころ、追加金として支払った金額六〇万円の合計額と認められる。

(八) 番号17ないし19の土地(中谷孫八関係) 一、〇〇〇万円

証拠(甲四三、乙三九)関係によれば、取得価額は、原告が、昭和四七年六月一七日、夏原ふみよ名義で、これらの土地を買い受けた右代金額と認められる。

(九) 番号20の土地(森口周作関係) 一、七一〇万円。

証拠(甲三五、七四、七五、乙六八)によれば、取得価額は、原告が、昭和四七年に、この土地を買い受けた代金額七一〇万円、昭和四九年一二月一二日、追加金として支払った金額一、〇〇〇万円の合計額と認められる。

(一〇) 番号21の土地(中谷重助関係) 二、一九九万九、九八五円。

証拠(甲七の15、二六、三一の1、一〇二、乙七〇、証人中谷重助、原告(第一回))によれば、取得価額は、原告が、昭和四七年に、この土地他二筆の土地(大津市瀬田大江町一二六六番地及び一二六五番地の一、合計二、〇六七平方メートル)を買い受けた代金額四、四一八万二、〇〇〇円、昭和四九年に、追加金として共同住宅の建築代金を右重助に代わって支払った金額二、七三〇万円の合計額七、一四八万二、〇〇〇円から求められる平方メートル当りの単価を、この土地の面積九一九平方メートルに乗じて算出した金額と認められる。

(一一) 番号22の土地(井上兵左衛門関係) 一、五五九万円。

証拠(甲四七、乙四四の1)によれば、取得価額は、原告が、昭和四七年九月二〇日、この土地を買い受けた代金額一、二九二万五、〇〇〇円、昭和五〇年一月四日、追加金として支払った金額二六六万五、〇〇〇円の合計額と認められる。

(一二) 番号29の土地(内田彦衛関係) 一、二五一万五、〇〇〇円。

証拠(甲四六、乙四五の1、2)によれば、取得価額は、原告が、昭和四七年一一月一五日、この土地を買い受けた右代金額と認められる。

(一三) 番号24の土地(井上芳太郎関係) 八八二万七、〇〇〇円。

証拠(甲四五の1、一〇三、乙四六の1、証人井上寿美子)によれば、取得価額は、原告が、昭和四七年に、この土地を買い受けた右代金額と認められる。

(一四) 番号25の土地(井上宗次・健二郎関係) 一、二五〇万円。

証拠(甲四二、一〇四、乙四九、証人井上宗次)によれば、取得価額は、原告が、昭和四七年九月三〇日、この土地を買い受けた代金額八五〇万円、昭和四九年に、追加金として支払った金額四〇〇万円の合計額と認められる。

(一五) 番号26の土地(山口孫治関係) 一、一〇〇万円。

証拠(甲八一の2、八五、乙六九)によれば、取得価額は、原告が、昭和四七年一二月一八日、この土地を買い受けた代金額四六二万五、〇〇〇円、昭和五〇年までに、追加金として支払った金額六三七万五、〇〇〇円の合計額と認められる。

(一六) 番号27の土地(小坂いわ関係) 一、一一三万円。

証拠(甲三六、乙三四)によれば、取得価額は、原告が、昭和四七年六月三〇日に、この土地他八筆の土地(大津市瀬田大江町九七四番地、九七四番地の一、九七五番地、九七五番地の一、大津市瀬田南大萓町二三一九番地、二三二〇番地、二三二三番地、二三二四番地、合計一、二六〇坪)を買い受けた代金額五、四三五万五、〇〇〇円から求められる坪当り単価三万円を、この土地の面積三七一坪に乗じて算出した金額と認められる。

(一七) 以上に対して、原告は、興人から合意解除によって取り戻した価格が取得価額であると主張するが、興人との間では、第一次ないし第三次契約の一部を合意解除したものであるから、その部分については当初から売買はなかったことになり、右解除に伴う現状回復義務の履行として、興人から受領していた手付金や中間金を返還したとしても、この金額が取得価額を構成するものではない。

3 必要経費の額 一〇七万円九、五〇〇円。

原告が土地の旧地主らを台湾旅行に招待するため旅行会社に支払った金額であって、原告において明らかに争わないから、自白したものとみなす。

4 分離土地等の雑所得の金額

以上のとおりであるから、分離土地等の雑所得の金額は、四億〇、一四一万六、九九五円である。

四  総所得金額(給与所得の金額)

総所得金額(給与所得の金額)が、二一〇万円であることは当事者に争いがない。

五  結論

よって、被告のした本件処分は、総所得金額及び分離土地等の雑所得の金額の範囲内でなされた適法な処分であり、これに違法な点はない。

(裁判長裁判官 吉川義春 裁判官 中村隆次 裁判官 遠藤浩太郎)

課税処分の経過

〈省略〉

別表2

土地物件明細表

(1) 興人との解除物件

〈省略〉

(2) 別物件

〈省略〉

別表3

取得価額の明細

〈省略〉

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